今回お世話になったお宿は相川地区にあるホテルめおとです。景勝地のめおと岩のそばにポツンと立っているお宿ですが、初日はその風景を見るまもなくレースに備えて喰って風呂入って寝ちゃったもんで、どんだけいい風景なんだかさっぱりわかりませんでした。明日の朝に見ればいいや…なんて思っていたのですが、翌朝レース会場に向かうアストロマンバスがやってきたのは朝の4時半。真っ暗で景色なんか見えたもんじゃありません。でもレースのスタートは7時半。これっくらいに迎えに来てもらわないと間に合わないんですよ。ちなみにロングに出場する人のスタートは6時。お迎えのバスは3時半です。宿によってはもっと早い時刻になる場合もあるんで、かなりタイヘンです。
ちなみにホテルの朝食は握り飯のお弁当です。この後も一日中変則な時間で競技が進んでいくんですが、宿の皆さんは全面バックアップで対応していただきました。荷物等も色々融通してもらって、居心地よかったですよー。SoftBankが機嫌のいい時しか繋がらないのだけがちょっと難点でしたけど。
会場につくと、朝の5時だというのに既に人で溢れかえってます。バイクも全てセットされ、人も機材もギッシリという感じですね。岸辺に腰掛けて握り飯と昨日地元のスーパーで買い入れておいたバナーナを腹に詰め込みました。風もなく、海は波やうねりも殆ど見られません。もちろんクラゲも。ナンバリングも計測バンドも受け取って準備万端。トランジットの方に戻ってくると、海の方でホーンが鳴って、ロングの皆さん1,000人が一斉スタート(男女同時です)を切っているところでした。赤い帽子にウェットスーツの大集団はやはり壮観で、塊のまま真野湾の沖合に移動していきます。それを目の当たりにして、なるほど、クラゲに関する心配は少なくとも自分にとっては杞憂であるということが理解できました。クラゲは先頭集団の人が追い払ってくれるから、後方を泳ぐ人は多分大丈夫だよ…とは昨日聞いていたのですが、さながら巨大なルンバがスイムコースを掃き尽くしていく感じです。アレでは多分塵一つ残らないでしょう。私などに至っては、さらにミドルの先頭集団がだめ押しにクラゲさんを掃討していってくれるでしょうから、危険性はほぼ無いに等しいと思われます。まあ実際には低温のせいか今年も昨年に続いてクラゲがとても少なかったようで、刺された!なんて話は身の回りからはほぼ聞こえてこなかったんですけどね。でも泳ぎの速くない自分は今後も永遠に大丈夫だ!そう確信しました。
そしてミドルのスタートが近づいてきました。ロングは若干海に出たところからのスタートでしたが、ミドルは砂浜からのスタンディングスタートになります。ミドルは総勢700名ほど。それが数十メートルの砂浜に広がってスタートを待っているわけですが、うーん、これがいっぺんに走り出したらどんなことになるのか、ちょっとぞっとします。緊張して喉が渇いたんで水を飲もうとあたりを見回したところ、それらしいドリンクサービスはみあたりません。んや、よく見るとスタートゾーンの脇に青いポリバケツがふたつ置いてありました。中身はたっぷりの水と、ひしゃくが何本か無造作につっこんであります。ひょっとしてこれは…ここから飲めと?なんだか腹壊しそうです。勇気を絞って横にいたおにーさんに聞いてみると。
『飲めますよ(キッパリ)』
にこりともしないで返されました。覚悟を決めて、ひしゃくで数杯ゴクリゴクリ。いやいや、これまでガッツリ文化系人生だったもんで、ポリバケツから水を飲んだのなんてはじめの体験です♡
なーんてやっている間に、とうとうBのスタートを告げるホーンが鳴り響きました。みんな一斉にダッシュ!かと思いきや、前の方に並んでいるいくらかの人達を除いては、みんな半歩きぐらいで水に入っていきます。この先長いですから、そんなにガツガツしていないんですな。驚いたことに当初はバトルらしいバトルもありませんでした。もちろん前の方ではゴリゴリやっているんでしょうが、スタートゾーンが意外と横に広いんで、中段以降の人はそれなりのスペースをとって泳ぐことができるんです。透明度もまあまあで、背丈以上の深さになっても海底の岩やら海草やらがぼんやりと目に入ってくるぐらい。周囲を泳いでいる人達の姿もある程度は捉えることができました。でも暫く泳いでいくと、あれ?なんとなく周囲の人たちとの間隔が狭まってくる!そのうち腕だの足だのがバチバチぶつかりだしました。実はスイムコースは道中ちゃんとコースロープに囲まれているんですが、うーむ、沖合のブイに近づくにつれ、なんとなくそのコース幅が段々狭くなっているようなんです。でなくてもみんなターンマークのブイを目指して泳いでいるんだから、次第に密集してくるのは道理ですわな。横からどついてくるわ、蹴りは飛んでくるは、上には乗っかってくるわ……てのは普通スタート直後に多いんですけど、佐渡は序盤を終わってから延々としたバトルが始まります。いつもはここで自分はバトルは苦手だから〜と引いちゃうところですが、今回は先が長そうなのでそうもいきません。普通より肘を突き出して泳いだり、手で押したり、足元に人の気配を感じたらバタ足を2ビートから6ビートにして追い払ったりして対抗してみました。でもそういうことやってると結局のところヘンな泳ぎ方になるので、スピード落ちちゃうんですよね。ほとんどチキチキマシンのブラック魔王状態です(よくて40代以降のしか分からないネタですみません)。それでも暫くすると速い人たちが前に行っちゃって、多少は楽ができるようになってきました。ここからはいつもどおり、とにかく心拍をあげないように、ゆったりとただひたすら腕をかくことに集中です。ふたつのターンマークを回って、潮の流れのせいか若干岸に向かうときは手間取りましたが、52分でスイムアップ。うーむ、水面自体は泳ぎやすいのに、セントレアよりも10分弱遅い。ずいぶん無駄に泳いじゃったかも。まあ余力はメチャメチャあるので良しとしましょう。
トランジットに駆け込むと、先にあがったらしい望月さんが声をかけてきました。うぉーいと声を返して後を追おうと思ったけど、それよりまずトイレ。ポリバケツから水を飲み過ぎました。かなりに涼しいのでトライジャージの上にバイクジャージを着込んで、エナジージェルを一気に吸い込み、さらに今回人からいいよーという話を聞いて仕込んでおいたういろうにかぶり付きました。んが、これは自分的にはバツ。口の中いっぱいにういろうがはりついて、咀嚼することも飲み込むこともままなりません。んもももーと呻きながらも、仕方がないのでそのままバイクをスタートさせました。こっから100キロもあります。通常のミドルより長いんですよね、佐渡は。
佐渡島は斜に並んだふたつの島が繋がったような形をしています。北東にあるのが大佐渡、南西にあるのが小佐渡と呼ばれていますが、ロングはこの島全部の外周を、ミドルは小佐渡の部分の外周をぐるりと回る形で競われます。なんでミドルの序盤はそのふたつの島の接合部にあたる国中平野を進むことになるんですが、気温は快適だしスイムの疲れも感じないし、俄然ペースは上がり気味になっちゃいますねー。30キロ台後半のペースで順調にとばしていると、すぐに前方にさっき先に行かれた望月さんの姿が見えてきました。うぉーい!と声をかけながら抜き去ろうとしたら、おっとっとっと、ミスコース。曲がるべきところをまっすぐ行っちゃって恥ずかしー。それでも序盤は順調。こりゃなかなかいいんじゃね?と、その時は思っておりました…。
さて、平野部を終わると最初のエイドステーション、住吉ASが近づいてきました。この大会のバイクのエイドはとてもよくできていて、ステーションの100mぐらい前にさしかかるとトランシーバーをもった係の人に大きな声で『なにか欲しいモノはありますか〜?』と聞いてもらえます。期待に震える声で『コ…コーラをおなしゃす!』とカミ気味に返したのに、『3399番コーラです』とか無線で連絡してもらえました。果たしてステーションに辿り着くと、ドリンクは水もコーラもアクエリアスも、ボランティアの中高生たちがボトルに入ったヤツを振り回しながらどうぞどうぞと渡してきてくれます。連絡の意味ねーとか思いましたが、ドリンクコーナーに続く補給食コーナーを見てその充実ぶりにビックリ。バナーナをはじめとした各種果物、おにぎり、パン、塩、水を含んだスポンジと至れり尽くせり。こっちの方の欲しいモノを言ってくれということだったのねーと納得しました。モチロンがっちりとコーラのボトルをゲットして、ぐいっとひと飲み。うぉ、キンキンに冷えているじゃねえか!生ぬるいコーラが出てくるのかと思ってたので、予想外の嬉しさです。これならナンボでも戦える!とか思えちゃうぐらい心強いエイドですよ。これがドリンクのみのWSも含めて6ヶ所。ASにはメカニックサービスもあって、ほんと至れり尽くせりと言えるでしょう。
住吉を過ぎるとその後は小佐渡の海岸線を進むことになります。海沿いってぐらいだから低いところをひたすら進むのかと思いきや、そこそこにアップダウンのあるコースが続くんですね、コレが。地味ーに脚にダメージが溜まっていくのを感じながらも、なかなかの眺望を堪能しながらひたすら脚を回しました。途中幾つも集落を越えていくんですが、たくさんの人が外に出て、こちらに声援を送ってくれます。これで元気が出ちゃうタチのワタシなんで、全部に声を返したり手を振ったりしながら頑張ります。と・こ・ろ・が、不意に後ろから拡声器の音が。
『Aトップが通過します。気をつけて下さい!』
ふあっ(゜д゜)?
待て待て、いくらロングとミドルではスタートに1時間の差があるとはいえ、スイムを倍泳いで、しかも大佐渡の80キロを余計に走るのよ。まだ60キロ付近だというのにいくらなんでも速過ぎるでしょ!とかドキマギしていると、びゅんと右側から抜いていきました。先導のオートバイとAのトップのバイクが。いや、こっちが遅いのは分かってるんですが、それにしても異常な速さです。スイムの差もあるでしょうが、やはりミドル以上ではバイクの差は圧倒的なんだなぁと実感しました。まぁ、完走目指してるレベルの自分にはあんま関係無い話ですけどね。それにしてもちょっと凹んじゃうスピード差だったですよ。
さらに追い打ちをかけるような事態が起こったのはその後です。いや、さっきから頬のあたりに湿り気を感じてはいたんですけどね。それでも突然に、大粒の雨が落っこちだしたんです。あちゃー、やべぇ。一日曇りの予報だったんでチェーンオイルもドライのを塗ってあるし、ヘルメットにひさしもつけてないぞ!いやそんなこと心配する以前に、ジャージは一気に水を含んで重たくなるし、タイヤにかかる抵抗もぐんと増した感じで、なんだか思うようにスピードが上がりません。まあ季節柄それほど雨自体は冷たくはないですが、それでも身体の部位によっては体温を奪われていくのを感じます。ヤバイヤバイ!そんな中でも相変わらず地味なアップダウンに脚は削られ続けて、なんだかイエローシグナルが点ってきた感じです。そんなところにバイクコース最大の難所が襲いかかってきました。
76km地点の小木ASを過ぎると、この佐渡トライアスロンの名物である高低差140mの小木の坂が待ち受けています。雰囲気ヤビツの出だしぐらいの坂なんですが、これを80km近く走った後というと、辛さ具合がちょっと違ってきます。ロングの人に至っては161km走った後にそんなのが待ち受けてるわけです。どの選手もみんなガクンと脚が止まっているのが見て分かります。もちろんインナーローでシコシコ漕ぎだすわけですが、なんとか登れちゃえはするものの、はてどんなペースで登ったもんだかが分からない。セントレアの時にはいい気になって抜きまくって後悔しましたが、そこまでいかないものの、やはりある程度の勢いをつけないと登りにくいような、でも着実に脚にダメージは溜まりまくってるような〜。もやもやしながら坂を越えてみると、うーむ、やっぱり脚の付け根の外側あたりがしくしく痛むぞ。どうもまたしくじっちゃったクサイです。
実際にはこの小木の坂の周囲で都合250mぐらい登るんですが、それを越えればほぼ下りだけ。でも、依然雨はザーザー。脚の付け根は痛むし、気持ちは萎え萎え。すっかりスピードは落ちてしまいましたが、国中平野に戻ってきたので、バイクゴールはもう目前です。必死にペダルを回し続け、ようやくサイコンの表示が100kmを指しました。あれ?いつまで経ってもトランジットが見えてこない。どゆこと?そう、勘違いしていたんです。バイクは100kmじゃなくて、105km。あと5km余計にあったんですわ。たった5kmじゃないかと言うなかれ、5kmといっても100km漕いだ後の5kmはワケが違うし、なにより予想してなかった距離延長は心をたっぷり萎えさせてくれます。ボタボタ雨の降る町中を、半分泣きそうになりながら頑張って、それでもなんとかバイクゴール。タイムは4時間25分ほど。平均時速23.8km/hだから、序盤快調快調〜なんて言っていたワリにはおっそいですねー。しかも脚はすっかりあがっちゃって付け根は痛むわで、ランは一体どうなるんでしょ?不安でいっぱいです。 つづく